『おせち料理』の始まり
おせちは、季節の節目である『節句』を祝うための行事として中国から伝わった習慣が由来といわれています。
元日(1月1日)や桃の節句(3月3日)など、5つの季節の節目に行われる『五節会(ごせちえ)』という儀式で、神様へ捧げる『御節供(おせちく)』と呼ばれる特別な料理が供えられました。
この習慣は奈良時代から平安時代にかけて宮中行事として確立され、お祝いの料理として御節供を食べることが定着しました。
江戸時代には御節供が庶民にも広がり、特に重要な日にちだと考えられた正月におせち料理を食べる風習が始まったとされています。
現在では、新年を祝う料理として年の初めの節日である1月1日におせち料理を食べることが一般的です。
おせち料理の中身についてはこちらのページで詳しく解説しています。
おせち料理にこめられた意味
おせち料理にはさまざまな料理が盛り込まれていますが、それぞれに意味がこめられています。
五穀豊穣や子孫繁栄、無病息災、不老長寿などさまざまな願いを象徴する食材が用いられています。
以下では、それぞれの品目や食材に、どのような願いや意味がこめられているかについて解説します。
数の子
数の子はニシンの卵です。
卵を多く生むというニシンの特性から、子宝や子孫繁栄を願っておせち料理に用いられています。
また、漢字では『鰊』という表記が一般的ですが、『二親』という字を当てることもあることから、両親の長寿を祈願するという意味合いもこめられています。
そのほかに、『春告魚』と書くこともあることから、ニシンは非常に縁起のよい魚とされています。
田作り
田作りは五穀豊穣を願う料理です。
イワシの肥料をまいた田んぼが豊作になったことが名前の由来になったといわれています。
また、カタクチイワシの肥料を田んぼに撒いたことで、米が5万俵も収穫できたとされる言い伝えから、『五万米』と書いて『ごまめ』と呼ばれることもあります。
カタクチイワシは、小さいながらも頭と尾が揃っていることから、縁起のよい食材とされています。
紅白かまぼこ
紅白かまぼこは、色と形が縁起のよいものとされています。
紅は『魔除け』や『慶び(よろこび)』、白は『清浄』や『神聖』を象徴しています。
また、形は『日の出』を象徴するものとして、元旦にはなくてはならない料理です。
現代では、『寿』の文字や絵柄が入ったかまぼこもよく用いられています。
海老(エビ)
海老は、ひげが長く腰が曲がっている様子から、長寿を願うための食材として知られています。
また、海老の目が飛び出ている様子は、『目出たし(めでたし)』ととらえられます。
それに加え、海老は成長するときに脱皮を繰り返すことから『出世』や『生まれ変わり』の願いをこめて、多くの祝い事に用いられています。
昆布巻き
昆布巻きは、不老長寿を願った料理です。
『養老昆布』から『よろこぶ』の語呂合わせで、縁起物とされています。
また、昆布に『子生(こぶ)』の字を当てることで、子孫繁栄を願った料理でもあります。
伊達巻
伊達巻の『伊達』は、『伊達男』や『伊達者』などの使い方からも分かるように、華やかさや派手さを表す言葉です。
伊達巻はその伊達者の着物に似ていることに由来した名前といわれます。
巻いた形状が書物や掛け軸を連想させることから、文化・学問・教養を持つことを願った料理とされています。
昔は、大事な文書や絵を巻物にしていたことから、おせちには伊達巻や昆布巻きなど、巻いた料理が多くあることも特徴です。
黒豆
黒豆は、黒が邪気を払う色とされる道教の教えから、無病息災を願う料理です。
『まめ』は元来、健康や丈夫を意味する言葉で、『黒く日焼けするほどまめに働く』『まじめに暮らす』などの語呂合わせからも、おせち料理に用いられています。
栗きんとん
栗きんとんは、金運を願う料理です。
『きんとん(金団)』は金色の団子を表し、その色が小判や金塊などに似ていることから、豊かな1年になるようとの願いをこめておせち料理に用いられています。
また、栗を臼でついてむく作業を『搗つ(かつ)』と言い表すことから『勝ち栗』とも呼ばれ、縁起のよい食材と考えられています。
紅白なます
紅白なますは、平安と平和を願う料理です。
紅白の色は紅白かまぼこにもあるように、お祝い事に用いる縁起のよい色とされています。
色合いと形状がお祝い事に用いられる飾りの『水引』に似ていることも、縁起がよいとされる一因です。
また、紅白なますの『なます』は、もともと大根や人参だけではなく、生の魚を使用していたことに由来しています。
たたきごぼう
たたきごぼうは、平和や安泰を願う料理です。
ごぼうは地中に細く長い根をしっかりと張り巡らせることから、家族や家業が土地に代々根付いて繁栄することにつながる縁起のよいものとされています。
また、ごぼうにはさまざまな薬効成分があることも、健康を願うためのおせち料理の材料として選ばれている理由の一つです。
おせち料理を重箱に詰める意味
おせち料理の元となった御節供は、器に盛られて提供されていました。
しかし、江戸時代末期から明治時代にかけて重箱に詰めて提供されるようになったといわれています。
縁起物であるおせち料理は、重箱に詰めることで『福』や『めでたさ』が『重なる』という願いもこめられています。
地域や家庭により異なりますが、おせち料理に用いられる重箱の段にも、それぞれ特別な意味がこめられています。
現代では、「食べきれない」「用意が面倒」といった理由から三段重を用意する家庭も多いですが、五段重ねが正式なおせちの段数とされています。
ここからは、正式とされている五段重にどのような意味があるかを解説します。
一の重
鯛を塩焼きにした料理です。
赤と白の鯛の色味が紅白の色合いになることから、お祝い事の象徴とされています。
また、鯛は「めでたい」の語呂合わせで縁起のよい魚として有名です。
長生きする魚であることから長寿を祈願する意味もこめられています。
主な品目
- 黒豆
- 数の子
- 田作り
- たたきごぼう など
一番上の段である一の重には、子孫繁栄や不老長寿などの願いをこめた品が中心に詰められます。
一の重に欠かせないのが『祝い肴(いわいざかな)』です。
関東では数の子、黒豆、田作りなどが入れられます。関西では黒豆の代わりにたたきごぼうや酢ごぼうといった、ごぼうを用いた品が入れられることもあります。
二の重
主な品目
- かまぼこ
- 栗きんとん
- 伊達巻
- 昆布巻き
- 紅白なます など
二の重は上から2段目の重です。
『口取り』といわれる甘い味付けやさっぱりとした酢の物が中心に詰められます。
酒の肴や箸休めの役割を担っています。
三の重
主な品目
- 鯛
- 鰤(ぶり)
- 海老
- 蛤(はまぐり) など
三の重は、縁起のよい食材やお祝いにふさわしい高級食材など、メインになる食材が中心に詰められます。
海の幸の刺身や焼き物が中心で、見た目が華やかになるように、重箱に隙間なく詰められるのが一般的です。
与(四)の重
主な品目
- 煮しめ
- 筑前煮
- 金柑甘露煮 など
『四』は『死』を連想させる忌み言葉です。
そのため、『四の重』は『与の重』と表記します。
与の重に詰められるのは、山の幸を使用した煮物が中心です。
煮物はたくさんの素材を一つの鍋で煮込んで作られることから、「家族みんなが結ばれるように」という願いがこめられています。
五の重
一の重から与の重までは、それぞれ何らかの願いをこめた料理を詰めますが、五の重は『神様から授かった福を詰めるため』に空けておくのが一般的です。
そのため、五の重は『控えの重』と呼ばれることもあります。
中身がなく空っぽであることで、『将来の繁栄や発展の余地がある』という意味もこめられています。
なお、地域や家庭によっては一の重から与の重に入りきらなかった料理や家族が好きな料理を、五の重に入れることもあります。
おせち料理にこめられた意味を考えながらよい新年を迎えよう
おせち料理には、さまざまな食材が用いられて色鮮やかな料理が詰められます。
それら一つひとつにさまざまな願いがこめられています。
普段何気なく口にしているおせち料理でも、それぞれの意味を知ることで、食べるときにより特別なものに思えるのではないでしょうか。
年末年始の忙しい時期に、おせち料理を各家庭で作るのは大変かもしれません。
そのような場合は、通販で販売されているおせち料理を購入するのもおすすめです。
最近では、通販で取り扱われているおせちの種類も豊富にあるため、各家庭のスタイルに合ったおせちを選ぶことが可能です。
おせち料理にこめられた意味を考えながら、家族とともによい新年を迎えましょう。